新しいお部屋を決めて欅坂の映画を観に行った日

もう限界だ、と家族が言った。今のお部屋が狭くてもう限界らしい。大人二人で1LDK。暮らせなくはないけど、荷物の多い我々は荷物に囲まれて日々暮らしている状態と言えなくもない。私はそういうのあまり気にならないし、今のお部屋のことを大変気に入っているし、この膨大な荷物と共に引っ越しを行う労力を考えると引っ越しに対して全く乗り気になれなかったが、在宅勤務が続く家族がいよいよ弱ってきたようなので引っ越しを考えることにした。

と言っても手配はすべて家族がしてくれた。ネットでこまめに物件情報を探して、これぞと思う物件が出たら不動産屋さんとやりとりして、内見の予約を取り付けて。私はその内見に同行して大丈夫そうかどうかの判断をさせてもらうだけ。

二人とも今住んでいるエリアが大変気に入っていてこのまま住み続けることを希望しており、しかしこのエリアには希望するような広さの物件がそもそもあまりなく、出ても大人気で一瞬でなくなってしまうため物件探しは難航していた。そんな中やっと内軒まで行った二軒は二軒ともNGだった。

一軒はとても古いビルの5階をまるまる使ったフルリノベーション物件。内装はとても綺麗だったんだけど、いかんせん共有部分が古すぎた。オートロックなんて当然ない古い重いガラスのドア。簡素なポスト。妙に鮮やかなのに暗い印象がある緑色のリノリウムの狭くて急な階段。エレベーターなんてものはない。スチールの分厚いドアが並ぶ廊下を何度も通り過ぎ、最上階でスチールの分厚いドアをガチャガチャと鍵を差し込んで開けると、なんということでしょう。そこには別世界が!という物件。ただし窓からは隣のビルたちの室外機がたくさん見える。広くて綺麗なんだけど、毎日仕事が終わって買い物をしてこの建物の暗い陰気な階段を5階まで帰ることを考えると気が滅入ってきて、しかも家賃は今のお値段から上がるということで、ちょっと無理だった。家族はけっこう気に入っていたらしく「わかった。もう古い物件は選ばないよ」としょんぼりしていて申し訳なく思った。

もう一軒はメゾネットというのか、少し大きい一軒家を1階部分と2階部分と3階部分とに完全に独立させた少し変わった比較的築浅の物件。それの3階部分。玄関は1階にあって、靴を脱いですぐ、まっすぐの長い木の階段が3階まで続いている。そこを上がりきると3LDKのスペースが広がっている。階段で難色を示されることが多かったらしいけど我々にはむしろ珍しくて楽しく、「階段にいっぱい本を並べられるんじゃ!?」と盛り上がった。お部屋も明るく、しいて言えば浴室乾燥機と宅配ボックスがないことが気になったが贅沢を言ってもキリがないしこのくらいはいいのでは、という感覚。前の住人は6年ほど住んでいて転勤での引っ越しらしいし、2階住人と1階住人のことを管理会社さんに聞いてみたら特に問題なさそう。ここに決めるか……?と迷ったが、ここにきて実は部屋に入った瞬間から気付いていた匂いがいよいよ気になってしょうがなくなってきた。溶剤のようななんとも言えない甘い匂い。管理会社さんは、気温が高い時期だし、締め切っているからどうしても気になるけど住んで換気したら気にならなくなること、築浅なので身体に問題のある物質は使われないないことを説明してくれたが、どうしても気になってしまった。しかもだんだん頭が痛く、喉が痛く、目も痛く、吐き気もしてきた。家族は言われたら匂いに気がつくくらいで、頭痛とかはないらしい。「これはもう俺にはどの程度辛いか分からないから。本人の感覚だから」と任せてくれる。やばい、これでは引っ越しをしたくないがためにシックハウスをでっちあげている人のようではないか、と少し焦りつつ、とりあえず不動産屋さんの車に帰って考える。不動産屋さんは何か用事があるらしくどこかに行ってしまった。不動産屋さんの車の中で落ち着いて考えると、二度とあの部屋には戻りたくないな、と思った。残念だけど、そのお家は諦めることにした。

そして今回見に行ったのは、二軒目を紹介してくれた不動産屋さんが見つけてくれたお部屋。3LDKなのに、今のお部屋から1万円くらいしか高くならない。ただし条件があって、オーナーさん転勤に伴う期間付き。2年間は絶対住めるけど、その後オーナーさんが戻ってくることになったら退去しないといけない。それが2年後なのか、さらに先なのかは分からない。正直そこにひっかかっていたけど、内見すると物件として申し分なく、値段を考えるとお得すぎるくらいだったので即決した。次の週末になると多分絶対残っていない。

さっそく不動産屋さんに戻ってなんやかんやと手続きをして二人でお昼ごはんを食べて、家族は家へ在宅ワークへ、私は会社にむかった。うちの会社はIT系で完全にリモートワークができる環境が整っているのに勤務しないといけない。謎すぎる。

電車に乗っていると新しいお部屋が見えたから、その旨家族にLINEする。

 

仕事をむりやり終えて、夜は「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」を観に行く。アイドルのドキュメンタリー映画だと思って観に行ったら実質「桐島、部活やめるってよ」で大変なことになっていた。平手友梨奈が不在の中、平手友梨奈を中心に語られる欅坂の歴史。満身創痍の中、スタッフに抱えられて荷物のように運ばれてドームいっぱいのファンの前に一人放り出される平手友梨奈は完全にキリストだったし大人たちは何をやっているのかとかなり腹が立った。たまにテレビで「この撮影は動物に危害を加えていません」というテロップを見るけど、アイドルも「このプロジェクトは子どもたちに危害を加えていません」のもと実施されるべきものだろうと思った。

それにしてもこの映画のタイトルに「嘘と真実」とあるが、何が嘘で何が真実なんだろう。もしやこの舞台裏の映像も嘘なんだろうか?欅坂のことをほとんど知らない私には全くわからず、いろんな人の映画の感想を調べた結果、映像であったことは全て本当。ただし撮っている以上、メンバーは多少なりともカメラを意識した行動をするかもしれない。膨大な映像の中からの切り取り方が嘘、というか、真実のうちのごく一部でしかない。という結論に至った。

欅坂はもうすぐ櫻坂になる。映画だけでも伝わってくる平手友梨奈の才能に欅坂の歴史を重ねて、平手友梨奈もろとも欅坂をおしまいにする映画なんだな、と解釈した。

それにしても平手友梨奈の魅力が素晴らしく、他に出てくるメンバーもさすがは欅坂の美形揃いで、ライブシーンやMVを撮るシーンも多くてとても見応えがあった。そろそろ上映館が少なくなっているけど、欅坂に詳しくなくても、アイドルが好きな人はぜひ映画館で観てほしい。

 

映画の余韻にひたりながら、いつもの道を家族と一緒に帰る。この道を一緒に通るのも、あと何回だろうね、と話す。いつものエントランスを抜けてエレベーターに乗ってかっこいいカードキーでドアをあけて玄関に上がって靴を脱いでいつものお部屋に帰った途端、急に泣きたくなって大声で泣いた。このお部屋の楽しかった記憶を思い出して、もうこのお部屋とさよならだというのが寂しくて泣いた。家族は「泣かないで。また新しいお家でいっぱい思い出つくろうね」と困っていた。いっぱい泣いたらちょっと楽になった。

新しい服の日の記憶

緊急事態宣言中に買った服があった。お出掛けもできないので大事にとっておいて、やっと出掛けられるようになったら週末ごとに雨で、そうこうするうちにすっかり忘れつつあった服のことを急に思い出した。

そういうわけで春に買った服を夏のまんなかでおろした。

その日は髪の毛を切って、謎解きに行って、謎解きに行く予定。

髪の毛を切りに一人で代官山へ。美容院に8周年おめでとうのリースが飾ってあって、もうそんなになるか、と思う。この美容師さんとは、前の前のお店からの付き合いなので、もう10年くらいお世話になっていることになる。一見なんともない私の髪の毛だけど、くせ毛で量が多いから、この人でないとすぐにだめになってしまう。インナーカラーを落ち着いたアッシュカラーに染めてもらって、それもまたいい感じ。

いつもながらの出来栄えに満足して渋谷へ。家族と待ち合わせる間、ヒカリエに入ることにする。売り場を見て「そういえば日傘欲しかったな」と思い出して店員さんに相談しつつ一つの日傘を購入。My new gear!!!それにしても店員さんが丁寧にたたみ方を教えてくださったのに、未だに上手にたためない。生地が独特でどうしてもぐしゃぐしゃになってしまう。

日傘を購入後、本命の CLASKA Gallery & Shop "DO" へ。大好きなMAMBOのグッズをひとしきり眺めて他のすてきなものたちも眺めて、何か欲しくなってMAMBOのエコバックと、いい香りのするアルコールハンドスプレーを購入。ずっとスーパーで食材の購入くらいしかしてこなかったから、ちょっとした雑貨がたいそう高く感じる。でも緊急事態宣言前はたまにこういう雑貨も買っていたわけで、こういうところが経済なんだな、と思う。それにしてもおしゃれなものはいい。心が洗われる。

そうこうするうちに家族が渋谷に到着するという連絡が来たので合流。お昼ごはんはエリックサウスマサラダイナーへ。八重洲のお店には行ったことあって大好きだけど、神宮前店は始めて。広いお店で落ち着いて食べられた。そしてふっわふわのビリヤニが絶品。マトンビリヤニがもうなくてチキンにしたから、次回はマトンが食べたいな。本当においしくて、渋谷に来たときの食事はエリックサウス一本になってしまいそうだ。

ご飯の後は吉本新喜劇の謎解きへ。すゑひろがりずコースを選択。芸人さんに説明を受けている間、後ろで控えている別の芸人さんがなんかやたらとこっちを見てにこにこしてくるなと思ったら、製作者の方だというのが帰りがけに貼ってあったポスターで分かった。みんなが解きに来てくれたのが嬉しかったらしい。謎はなかなかおもしろかった。Youtubeすゑひろがりずの集え!けものどもの藪を見てて好きだったのもまたよかった。

次の謎解きまでまあまあ時間がある、どうしよう、となった時に、家族が新しくなったパルコに行きたいと言い出した。それはいいねとむかう。なんとパルコにはポケモンセンターとNintendo TOKYOがあった!!!Nintendo TOKYOではあつ森のグッズが大人気であったが、あつ森はやっていないのでスルー。個人的には一見マリオなのによく見るとポケモンのマップでできているクッションがよかった。さらにはポケモンセンターの方では一見ピカチュウなんだけどよく見るとマリオのマップでできているクッションがあった!これは入れ子構造になっている!どんどんとマリオとポケモンの世界が交互に出てくるタイプの!!!と大興奮したが、クッションはいらないので購入できなかった。かわりにイーブイのお菓子を買った。

ポケモンセンターを出た後、下でカードキャプターさくらの限定グッズショップをやっていると家族が言うので、絶対行こうということに。途中でボクサーパンツ屋さんがあって、店頭に飾られたイーブイのパンツに目が止まる。期間限定ユニセックス商品ということで迷わず速攻購入。ついでにテディベアちゃんのパンツも購入。カードキャプターさくらショップはかわいかった。レターセットを購入。

途中の廊下で大きいパルコのネオンサインを発見。もしかしたら、もともと外に飾られていたものなのかもしれない。新しい場所に来て新しいものを見るのは特別感がある。今回はパルコが新装開店で、新しい。そういえばお昼ごはんの後、新しい宮下公園も少し見たんだった。エスカレーターを上りながら、新しい服を見下ろして、なんだか今日は特別なデートの日みたいだなと思う。

まだ少し時間があるしね、ということでMUJIカフェへ。私はクリームソーダ。家族はプリンとコーヒー。ここのクリームソーダはおいしい。プリンも。少しづつ分け合いながら食べる。

そうそうするうちにいい頃合いなので下北沢へ。この日はTumbleweedのゾンビラボからの生還。Tumbleweedで一緒になる(つまりテーブルを専有するグループではなく一人や数名でばらばらと来る)お客さんは、だいたいにおいて理系っぽい頭のよい若い男性が多い。この日も例によって若い男性たちと一緒になり、コミュニケーションに困ることもなく比較的ややこしい情報もすんなり整理して気持ちよく謎を解くことができた。楽しかった。

旅行したとかそういうわけではなかったけど、なんかすごく特別に楽しくて充実した一日だった。

東京オリンピックがなかった世界線

明日から4連休だ、と会社から出て蒸し暑い雨の夜を歩きながら、そういえば本当はオリンピックがあったはずなんだよな、と思った。世界的に疫病が大流行してオリンピックがなくなるなんてそんなこと全く予想していなかったから、どうしてもどこか別の場所に「2020東京オリンピックが開かれた世界線」があって、むしろそっちが本筋で、我々はうっかり傍系に迷い込んでしまっているのではという感覚がぬぐえない。

ともあれ明日から4連休だし、オリンピックはないし、私には脱出の予定がたくさん入っているのだ。

東京の感染者数が初めて300人を超えたという速報の中、初日は歌舞伎町のTMCで「ある魔法図書館の奇妙な図鑑」を遊ぶ。PTG第一弾の「不思議な晩餐会へようこそ」はとても綺麗で成功もしたけど、途中の1つの仕掛けがなかなかクリアできず苦手意識があってなんとなく回避していた。ただ、この情勢でなんとなく終わる気がしてチケットを取ってみたところ、東京公演は8月までという発表があった。やっぱり。

受付で二人分のチケットを見せると「ただいま感染症対策で、お二人のお客様はお二人だけでやっていただくこともできますし、他のお二人連れとチームになって四名で遊んでいただくこともできます。どちらがいいですか」と聞かれた。

一緒に行った家族と顔を見合わせる。普通の謎解きなら二人でやらせてもらうところであるが、相手はPTGだ。謎解きの理屈が通じず、なんやかんやの試行錯誤が必要というイメージがある。そうなると発想力は多い方がいいのか……?でも二人でやるのも楽しそうだけど、二人で詰まったらマジで辛いよな……?と決めあぐねる。家族も多分同じようなことを考えてるっぽくて迷ってる。結局「次に来た人たちが一緒を希望されたら一緒にしてください」という「運を天に任せる」作戦に出た。

最近のリアル脱出ゲームユーザは若い人も多い。というかリアル脱出ゲームがきわめて健全に新しい世代を取り込んで行った結果、昔からいる私達が相対的に老人になって行っているだけだ。しかし今回は珍しいことに我々よりも歳上っぽい男性二人組がテーブルに現れて、一緒に遊ぶことになった。今回の謎解きではプレイヤーは「魔法学園の生徒」という設定だけど、我々は教職員四人にしか見えなかった。

そんな教職員っぽい四人は魔法学園でがんばった。男性お二人は謎解きはそんなに遊んだことはなさそうだったけど、なんとなくTRPGボードゲームなんかをやり込んでそうな雰囲気があって、謎解き慣れが役立つところと、大局を見て状況を判断するところと、うまく補い合いつつみんなで協力してがんばった。

しかし脱出できなかった……。

今思うと、全体的に落ち着きすぎていたかもしれない。失敗して「残念だったな。もうちょっとだったのにな」と悔しくは思ったけど、残り数秒まで脳が空回りしてタイムアップして「あああああああああああ」となる感じはなかった。

「残念だったね」「前回のPTGよりはまあ納得感ある」「でも分かりづらいよ」などと言い合いつつ、すかさずルパン三世とコラボしたリアル潜入ゲーム「ノワール美術館潜入作戦」へ。チームどんくさいの我々はリアル潜入ゲームを苦手としていてなんとなく回避してきたが以下略。あと、スカートでは行けないのも地味にめんどくさい。

リアル潜入ゲームはガラガラの方が楽しい。果たして我々の他には2組程度しかおらず、極めて快適に遊べた。その分TMCの経営が心配になった。

チームどんくさいはチームどんくさいなりに色々な罠を潜り抜け、しかしどんくさいがゆえに最後っぽいところの直前でタイムアップになってしまった。ラストは気になるもののもう一回遊ぶのは大変だし、しかもTMCの経営も心配になるので800円/1人課金する。そしてあっさりクリア。もう、最後の扉の前だった。今回のリアル潜入ゲームは敷地を広げた効果があって、なかなか楽しかったのではないかとチームどんくさいなりに思った。

晩ご飯はベルクへ。和牛のコーンビーフなどを食べてそろそろ帰ろうかという時に背後に貼られていたポップ「今月のチーズ」が目に留まって、どうしても食べたくなる。ということで追加オーダー。これが大正解だった。ラムボールのラムが全体を包む中、ブルーチーズの青リンゴのような香りに生クリームが乳製品のブーストを加え、薄焼きクラッカーが楽しい歯ざわりと香ばしさを添え、柑橘がアクセントを主張し、最後に舌にカカオの苦みとチーズの塩気が残る。なんだこれ!?この組み合わせを考えた人は天才じゃないか!?と感動した。

最後にお持ち帰りでポークアスピックを買ったら「袋いりません」と言ったのに無料で袋をつけてくれて、さすがは反体制のベルクだぜ、と思った。(袋でも、植物由来成分がXX%以上だと課金しなくていい、みたいな規約があるらしい)

 

2日目は池袋で「アンドロイド工場からの脱出」に行った。この日はもうチケットを取ってしまった後にヨーロッパ企画の生配信劇が発表されたもんだから、先に池袋に行って駅前のBecker'sで遅めのお昼ごはんを食べた後そのまま居座り、家族がほぼ常に持ち歩いているノートパソコンで仲良くイヤホンを半分こして配信を見た。すごくおもしろかったし素晴らしかった。こんな、電車を貸し切って動く車内で劇をして生配信するだなんて考えてもみなくて度肝を抜かれた。機材的な部分もすごいし、電車の進みに合わせてお話も進むから劇のスピードも完全にコントロールしないといけないのにそれもできていて、さすがは映画「ドロステのはてで僕ら」を秒単位のお芝居でつくらはったチームは違うなあ、と思った。ほんとすごかった。まだアーカイブで見えるはずだから気になった人は見てほしい。あ、UFO食べタイムリープもマジでおすすめです。

そして「アンドロイド工場からの脱出」は失敗した。

これは……賛否両論ある系かな?一緒に行った友人たちは面白かったと言っていたけど、私は「これはこれでこれを目的として来たら面白いけど私はこれを遊びにきたわけじゃないしもっと謎を解きたかった」と思った。謎解き部分以外の要素にけっこう時間がかかってしまって、謎解きの時間がもう少し多かったらよかったなという感想。みんながんばってたけどやっぱ向き不向きとかあるし、うん、という感じ。謎の構造自体はとても納得がいって面白いものだっただけに、もう少し考えたかったなと思った。

 

3日目は原宿で「びっくり謎工場からの脱出」へ。豪華に二人チケット(一人あたりの金額が高い)で挑戦。これ、かなり楽しみにしていた。評判めちゃめちゃいいし。しかも二人きりで遊べるし。

製作者の仕掛けた遊び心に何度も「びっくり」しつつ夢中で解いて、失敗した。

極上の時間だった。文句なしの殿堂入りの名作だ。コラボもしていない、ただ、直球勝負の謎。13年前に生まれたリアル脱出ゲームが、遊園地でやったりZeppツアーになったりメットライフドームに1万人集めたり映画になったりドラマになったり街歩きになったり潜入になったり、いろいろ、いろいろ進化して発展してきたけど、その中の今の一つの究極系というか、あえて発展しないまま謎だけを突き詰めた姿に感じた。

なのに失敗した。

どこかで、我々は成功するのではないかと思っていた。それほど、「びっくり謎工場」のことも、自分たちのことも信じていた。しかし「びっくり謎工場」は軽々と我々の上を飛び越えてしまった。これは悔しい。この悔しさとヘコみっぷりは、横浜で「ほんとに難しいリアル脱出ゲーム」の最後のワードがなんとなく見えつつふんぎりがつかなくて失敗した時ぶりだ。とことん落ち込んで帰った。

三浦春馬が死んだ

三浦春馬が死んだよ、自殺らしいって」

 と、デパートのコスメカウンターでお粉のお会計を待っている私に家族がそう告げてきた。

「えっ、三浦春馬が!?」

と驚いていたら店員さんが戻ってきてくれたのでカードで支払いをしつつ、新型コロナの影響で透明ビニールがかかったサンプル類のかわりに画用紙にルージュやらアイシャドウやらが塗られている色見本を見て「えのぐやさんみたいだな」と思った。

購入したお粉といくつかのサンプルが丁寧に入れられたかっちりとした紙袋を受け取ってカウンターを後にして通路を歩きつつ意味もなく

三浦春馬が……」

と呟いて、家族に

「なんで今そんなこと言うんだよ。おかげで記憶がつながって毎朝お化粧でこのお粉使う度に三浦春馬のことを思い出しちゃうじゃん」

などといちゃもんをつけ、さらに何度か

三浦春馬が……」

と呟くなどした。

そのまま上の階に行ってうろうろしたり、世界堂に行って子供が使うような水彩絵の具と筆を買ったり、ラーメンを食べたりした。

その間、三浦春馬のことを考えたり、目の前のことに気を取られてすっかり忘れたりしていた。

一番考えたのは「世界はほしいモノにあふれてる」のことだった。と言うか、私にとっての三浦春馬はほぼ全て「世界はほしいモノにあふれてる」の時の三浦春馬だった。

NHK総合でやっているこの番組は、すてきなものを外国で集めている仕事人たちをゲストに呼んで、その密着ドキュメンタリーをMCのJUJUさんと三浦春馬がスタジオで見てゲストとお話したりするというものだ。

この時のJUJUさんと三浦春馬は、ゲストが集めてくる美しいものに一緒にため息をついたり、驚いたり、楽しんだり、とても仲がよさそうで、そしてこれまたJUJUさんのコメントも三浦春馬のコメントも「いい人」感が出ていて、私はこの番組と2人のことがすっかり好きになっていた。

一番覚えているのは、何かの回で「クイズに正解した人だけタルト・タタンが食べられます」というのがあって、トークの延長のゆるい感じだから当然早押しボタンなんかない。その時にJUJUさんと三浦春馬が同時に「あ!」と正解に気付いて、「どうぞどうぞ」「いや、どうぞ」とお互い回答権を譲り合った挙げ句、三浦春馬に回答権がわたり、当然ながら正解した彼がタルト・タタンにありついたことがあった。

これが衝撃で、私はなんとなくこういう時はJUJUさんが優先されるような気がしていたから、この光景を見て、JUJUさんと三浦春馬は仲のいい姉と弟みたいなものなのかなと感じた。そしてJUJUさんは多分自分がはっきりしているだろうし、ここまで三浦春馬のことを大事にするからには、三浦春馬って本当にいい人なんだろうなと思った。三浦春馬が真面目でいい人そうなのはテレビのこっち側からでもコメントとかの節々でなんとなく感じていて、その感覚が間違えていないらしいことを知って嬉しくなった。

さあ帰ろうと電車に乗ってTwitterを開き、真っ先にJUJUさんのアカウントを検索してみた。公式バッチが付いているそのアカウントはたしかにJUJUさんのものらしいけど、三浦春馬のことを知らないはずはないのに、最新のツイートは2日ほど前の日常のものだった。そうだよね、言葉がないよね、ショック過ぎるよね、と思って、タイムラインに戻った。

タイムラインでは三浦春馬の死とそれにまつわる様々なエピソードがいつもの通り消費されていた。

その間も何度かJUJUさんのアカウントを見に行ったけど、更新はなかった。おしゃれな人だからインスタかも、と普段立ち上げないインスタアプリで探してみたけど、JUJUさんのインスタアカウントは存在しないらしかった。Twitterは更新されない。何度か読み込み直しをした時に、私はJUJUさんになんとなく救いを求めていたことに気が付いた。でもJUJUさんはそれどころじゃない。JUJUさんの言葉を読みたいような気持ちもあったけど、この沈黙こそがJUJUさんの今なんだな、ととても納得できる感じがあった。

今夜は月に一回の夜の仕事だった。早朝に終わってTwitterを開くと、三浦春馬と撮った写真と共に思い出を語る有名人たちのツイートがいくつか目立つところに上がっていた。JUJUさんのアカウントは更新されないままで、むしろ信頼感が増した。

ポケコロのなぐさめの星を見てみた。このサービスは短文を無記名でボトルに込めて流せるというものだ。メッセージに対して他のユーザは返信ができるけど、書いた本人も他のユーザも1つのメッセージには1つしか書き込めず、したがって炎上することはほとんどなく、全てがどんどんと流れていく。いつもの日常のボトルにまじっていくつか三浦春馬のことを残念がるボトルもあったから、私も1つだけ書いて流した。2つコメントが来てなぐさめられたので、無料だけどお花を返した。

小雨が降る早朝の空気の中で、この俳優の早すぎる死をうっすらと日本中が悲しんでいるような気がした。

何があったかは知らないけど、死ぬしかないと思うほど三浦春馬が追い詰められていたのだと考えてとても気の毒になった。三浦春馬ほどいい人で真面目で努力家なら、仮にどんな道を選んだとしても、しばらくはごたごたするかもしれないけど、きっとどこかで幸せになれたような気がするのに、まわりの人もやりきれないだろう。

いなくなっちゃったのが寂しい。Wikipediaに没年月日が今日の日付で入っていて涙が出た。

なるほどこれがはてなブログ

今は2018年。

ちょっと色々とやってみようかなと思って、昔のブログを見に行ったけどあまりにも放置し過ぎて空き家に立ち入ったような気分になったから、心機一転ここで書いていこうかなと。

ほんとあれからいろんなことがあったよ。

ドキドキ!プリキュア第一話

一週間前になってしまったけど、ドキドキ!プリキュア第一話の感想を。


一話のアバンが最初からクライマックスな戦闘シーン、しかも紫色のプリキュアということでこれはもう明らかにハートキャッチプリキュアの第一話のキュアムーンライトのシーンをなぞっていてハートキャッチプリキュア大好きな私としてはもう開始5秒でテンションが上がる。
綺麗な画面にかわいいキャラクターデザイン。
そして畳み掛けるように始まるOP。明るくてかわいくて見ているだけで元気になれる映像に音楽。


プリキュアだ!プリキュアが始まった!


私はハートキャッチプリキュアが大好きで、ハートキャッチプリキュアに入れ込むあまりハートキャッチ以降のプリキュアにはあまり感情移入できなくなっていた。
スイートプリキュアは良作だと思うし、スマイルプリキュアは残念ながら個人的には最後までいまいち好きになれなくて、ハートキャッチプリキュアが終わってからずっと寂しかった。
そうやって味気なく現実を過ごしていたところ、2年ぶりにプリキュアに会えたようでOPを聞きながら少し泣いてしまった。


ドキドキ!プリキュアの4人はみんながハイスペックなのがいいと思う。
その点が等身大のキャラばっかりだったスマイルとは対照的だ。
私はどちらかというとプリキュアは憧れの存在でいて欲しくて、だから今回のハイスペック路線はかなり嬉しい。


頼りになる生徒会長に、それを支える優しくてしっかり者の幼馴染。トップアイドルとして(多分友達がいなくて寂しいのを我慢して)頑張っている子に、おっとりとして少し世間ズレしたお嬢様だけど自分を偉いとはちっとも思っていないまともな子。
みんながちゃんと自分の立場なりに物事を考えて最善を尽くして生きているのが自然と伝わってきて、みんなのことが一瞬で大好きになった。


一話はクローバータワーという高いタワーに遠足に来た主人公の前に敵が現れてキュアソードが戦って主人公がプリキュアに変身して敵をやっつけるという所まで。
スカイツリーのお膝元で生活している私としてはいきなり地元が出て来たようでかなり嬉しい。
遠足の同級生達が車酔いに落とし物に他校との小競り合いにと大混乱する中を鮮やかに駆け抜けて解決して行く生徒会長。それを見守りつつ主人公のことを心配する幼馴染。
ファンに囲まれる紫色のアイドルの子と普通の中学生である主人公との偶然から始まる一瞬の心のやりとり。ここでまた主人公が「相手がアイドルだから」という損得勘定を全く抜きにして、普通に相手に対して親切にしているのがとてもいい。しかも主人公はちゃんとそのアイドルの子のファンなのに。
黄色いおっとりお嬢様も登場。セバスチャンという名の白髪の執事を従えて、何やら主人公のお友達らしい。
そしてこれまたかわいらしいやんちゃな男の子と妖艶なお姉さまの敵も出現。


一話に相応しい賑やかな雰囲気の中で、キャラの特徴や性格をしっかりと印象付けて、しかも主人公はプリキュアに変身までしちゃう。
一話としては大成功だと思う。


それにこのアニメ、何がすごいってプリキュアにならなくても多分面白いだろうなと思わせる力があるところ。それがプリキュアに変身しちゃうんだからこれはもう面白くならないわけがないのだ。
マックスハートからプリキュアを見続けて来た私が断言するけど、ドキドキ!プリキュアは名作になる。
これから一年間、毎週日曜日が楽しみで日曜日の朝9時から水曜日くらいまではそれまでのプリキュアのことを考えて、木曜日らへんから次のプリキュアが楽しみ過ぎてそわそわしちゃう、そんな日々がまた訪れそうでとても楽しみである。


マナちゃんが横入りのカニのジコチューに対して言っていた
「そりゃああなたはカニだけど、カニだって人と仲良くしたほうが幸せになれる」
という台詞が衝撃的に秀逸だったことをメモして、明日のドキドキ!プリキュアに備えてこのエントリをしめようと思う。


これから一年間よろしくお願いします。
プリキュア!ラブリンク!

マイマイ新子と千年の魔法

映画「マイマイ新子と千年の魔法」はネットで話題になっていたし、面白いんだろうなあと思いつつも映画館に行かず、それが今回テレビでやるのを見付けたので観てみた。
これはもうやられた。
マイマイ」からなんとなく化物語まよいマイマイを連想する程度に前提知識が無い状態から無防備に鑑賞に入ってしまったけど、これはなんという映画なんだろう。


小学生の頃ってわけのわからないものだ。
思いやりとか譲り合いとか言葉を選ぶとか、そういう成長と共に身に付けるはずの人間関係のテクニックが不十分な者が毎日集まっているんだからそれはもう大変だし毎日が辛い。
しかも子供というものは世界が狭い。
世の中には色々と素晴らしいものがいっぱいあるのに、26色の色鉛筆がこの上ない宝物になるという価値観。

ああもうこのぐちゃぐちゃな感じ……まさに子供時代だな。と思いながら観る。


夢のように可愛い金魚に、子供達は若くて綺麗で優しい保健室の先生の名前を付ける。
その先生が結婚するのを聞いて金魚の池をお花やビー玉で飾り付けてみんなで幸せそうに笑うのは、子供にしかできないことで、大人だと先生に直接お祝いの気持ちを伝えてしまう。
先生と金魚は全く関係ないし、金魚を飾っても先生には届かないのにこれでよしとするのはちょっとお葬式にも似た感じのプリミティブな宗教だ。


他にもタツヨシのお父さんの木刀が希望としての力を持ったり、空想の世界で遊んだり、「ダム」するだけで楽しかったりと子供時代が圧倒的なリアルさで描かれている。
映画を観ているはずなのに、誰かの子供時代の感情を直接受け取っているような感じで、自分の子供時代の感情を思い出して、ああもうこれはいわゆる「しにたい」というやつだ。


物語のラストでは子供であることをやめて酒場に向かう新子と、子供らしい空想の世界で千年前に行くことに成功する貴伊子とが対比を持って描かれる。
でも結局は新子は大人になりきれずやっぱり子供だったね、というふうになるんだけど、でもこれからこういうことがたくさん起こって新子は大人になって行くんだと思う。


冒険が終わって、新子はタツヨシに
「その前にいっぱい遊ぼうや」
という声をかける。


始めはこれに非常に違和感があって、新子がこんな綺麗なことを言うはずが無い、と思った。
でも今考えると、この数時間で新子が少し大人的な視点を手に入れたこその言葉なのかもしれない。

物語の幕切れは意外とあっけなくて正直なところ制作中に何か事故ったのだろうかと思ったんだけど、子供って別れる時も「ばいばい」ってあっさり別れるし、子供時代の感情であるこの映画があっさりと終わるのも、らしいっちゃらしいのかもしれない。

映画を観終わった時にはなんだか夏のお昼寝からさめた時のような感じがした。