第十回文学フリマに行ってきた

というわけで文学フリマ、通称文フリに行って来た。
文フリは文学系の同人誌即売会。二次創作ではなくて、一次創作とでも言うのかな。オリジナルの小説は勿論、エッセイとか評論とか詩歌とか短歌とか写真とかの同人誌をつくって売ったり買ったりできる会。
なんて解説してみたはいいものの、同人とかあまり詳しくないので万が一間違えてたらごめんなさいなんだけど。


で、その文フリ。普段ネット上で好きだなあと思っている方々が本を出されるみたいで行ってみたいと思ったものの、一人で行くのは心細い。
そんな時、以前お会いした方が行くよという情報を入手したので、これ幸いと便乗して連れて行っていただくことにした。
文フリは大田区産業プラザで開催されるらしい。その場所の渋さと文学というジャンルの渋さを、以前一度だけ行ったことのある夏のコミケに足しこんで、文フリの雰囲気を想像していたのだが行ってみるとまさに予想通りでちょっと面白かった。


渋いとは言え同人誌即売会である。わくわくする。しかもネット上で憧れの方々がいっぱいいらっしゃる。
わーいわーいとご挨拶したりきゃーきゃーとお目にかかったり「はっじゃあいただきます」なんて同人誌を買ったりと、まあかなり浮ついて文フリを巡った。
文フリ終了後はお知り合いになった方々と喫茶店に入って他愛無い話をしたりと普通にオフ会っぽい気分。ただ、以前にも会ったことのある学生さん達が、秋葉原の喫茶店にいる時よりも文フリ会場では数段活き活きとしていて楽しそうだなあということが印象的だった。


そんな浮つき気分は帰宅後もしばらく続いてたんだけど、同人誌いっぱいありすぎちゃって迷うなあどれにしようかなあなんてうきうきしつつネット上で好きな人が文章を書いているからと一冊の同人誌を選び、読んで、気が付いたら椅子の上で正座していた。


ああ好きと言ってもお気に入り程度の意味なんですけど蛇足ですけどとにかく、もともと好きな人が書いている文章なので好きになるのは当然の流れなんだけど、思っていた以上に好きになった。
そのエッセイとも日記ともつかない自称だめな大学生の書いた文章は、私に自分が大学生だった頃の気分をかなり細かく思い出させ、さらに私が感じたことのない感情もよく分かるように書かれていた。


私は今年で社会人も5年目になる。正直かなり大人になったと思っていた。
例えば本来はけっこう受身なタイプなのに、仕事ではバリバリ先輩っぽく振舞えるようになったり。それに大人の余裕と言うか、包容力も身に付いたように思う。
……なんか自分で言っててもかなり怪しくなってきたのが残念なんだけどとりあえずそういうことにして話を続けると。


正直私は大学生の頃の自分さらば!ぐらいの勢いで毎日を送っていた。
妙に間延びした人生の夏休みですっぽり落ちてぐるぐる廻ってしまっていたしょうもない思考や下手な恋愛なんかはもう卒業して余裕!あれ君たち大学生なのかそれはまー大変な時期だねえ頑張ってねわっはっはとある意味上から目線だった。ごめんなさい。


この同人誌は、主に大学生くらいの方が小説やエッセイなどを寄稿してできている。
件のエッセイを3回ほど読み直した後、他の方が書いた小説を読んでみる。もともと凄い人だなと感じてはいたのだが流石にうまい。てか、いい。
他の方の日記も人柄が感じられていい。字がやたらとちっちゃい小説はごめんまだ読んでない。
同人誌には一人一人の思想がしっかりと刻み付けられていた。立派だった。


昔、自分が学生の頃、「子供なりに」という言葉が嫌いだった。「子供なりに思うことあるのでしょうね」とか。
思うことがあるのは人間なら当然で、それをわざわざ「子供なりに」を付けることにより「子供の浅知恵ながら」といった意味が付き、結果として子供を一人の人間として見なくなるように感じたからだ。
そのスタンスは変わっていなかったと思っていたのに、実はいつの間にか上から目線を手に入れて個人を見なくなってしまっていたことに同人誌を読んで気が付いた。そして上から目線だった自分を恥ずかしく思った。


大学院生の頃は自由な自分を自覚していて、社会人になって自由さを失うことを少し心配していた。


社会人一年目の頃はちょっとづつ自分が変わっている実感があって怖かった。具体的には、物を考えなくなり、日々がルーチンになり、よく言えば丸く悪く言えば鈍感になってきた。
なんとかしたかったけどどうすればいいか分からなかったしなんともできなかった。
同期が話すドラマには全く興味が無かったし血液型性格診断で盛り上がれるなんてこいつら大丈夫かと思っていた。
新人研修で時々出て来るメラビアンの法則なんて死ねばいいのにだったけど日報にはちゃんと「身だしなみには気を付けようと思った」なんていい子なことを記入しておいた。ゆーとーせいにはかなわないニャー。


二年目半くらいには変化を受け入れるようになった。
いくら上から目線が嫌だと思っていても仕事では立場として上の人っぽく振舞わなければいけないことが理解でき、割り切ってそのように振舞えるようになってきた。
血液型性格診断もああまた退屈な話が始まったなと思いつつ「私はA型です!」なんてノリノリで答えるようになっていた。
同期はみんないい奴達なのでニチアサが好きだという話をしても友達でいてくれた。
小学校低学年くらいまでの子供と遊ぶのも上手になった。大学院の研究室BBQ大会の時には仮面ライダー威吹鬼をしようとする教官のお子さんに対し自分も仮面ライダー響鬼をしようとしてごっこ遊びが成り立たず途方に暮れた挙句、渋々魔化魍をやったりしてたんだけど、この頃から子供が何を求めているのかを考え、割り切ってそれを提供できるようになった。悪者役も意外と楽しかったし子供が楽しんでくれると嬉しかった。


こうなるともう早かった。
いつの間にか鈍感さや上から目線がパワーアップしていた。その代わり仕事を回すコツは掴めた。


同人誌の人のサイトに行ってみる。色々な文章が置いてある。ちゃんと書いてある。


一人暮らしの部屋でNHK教育を流しっぱなしにしながらじっと過ごした沢山の夜のことを思い出す。


自分が大学生だった時の文章を読んでみたいけど当時はまだブログサービス開始前で、自分でHTMLを組んでサイトを立ち上げるまでの根性がなかった私は何一つ残していない。ああ2chの書き込みくらいならもしかしたらあるかもね、なレベル。
とは言えこのブログは一応M2の春頃からやってるから学生時代の私にちょっと会えるんだよな、なんて過去ログを読んでみたら以前はこっぱずかしかった最初の頃のエントリが一周まわって可愛らしく見えるようになっていて笑った。